日本一の柿の産地、和歌山県はかつらぎ町が最大の産地として有名ですが、舌の肥えた地元の人やお年寄りに根強い人気を持つ柿があります。それはお隣の九度山町の柿。"秋の風物詩"と言えば富有柿を指すこの町で、中でも特に美味しい柿ができるといわれているのが一心農園さんのある広良(ひろら)地区です。

広良地区は紀の川の南岸で高野山のふもとにあり、東の方角が開けているなだらかな丘陵地。ここが姿・色・味の三拍子揃った柿の栽培に良い風土とされるのは、まず日照時間が長いことと、紀の川の流れが上昇気流を生み出し冷気と交わることにより日中と夜間の温度差ができるから熟度・糖度があがるのだとか。また御荷鉾層(みかぶそう)と秩父古成層、三波川層が入り込んだ粘質の土壌であることも品質や形に良い影響を与えているのだと言われています。
今回お話を聞くことになったのは「6Lの柿を見たことある?」という話を聞いたから。「スイカじゃないんだから6Lサイズの柿なんて・・・」と思っていたのですが、、ありました。なんとまぁ大きな柿。手に取るとずっしりと実が詰まっているのがわかります。今回見せていただいたのは「すなみ」という品種。他にも大玉富有柿など品種で言えば大きな柿があるそうですが、なんと一心農園では普通の富有柿の5Lや6Lもあるのだとか。

「要は見極めだね。摘蕾・摘果の技だよ」と園主の元家さん。いえいえ、もちろんそれだけじゃないと思います。「まぁ食べてみて。うちの柿は大きいだけじゃないよ。」切り分けて食べてみると、大味なんてとんでもない。芯のあたりまでしっかり甘いんです。
次に「うちの柿はどれもうまいけど、太秋もおすすめだよ」と出してくれた柿は黄色っぽく、キズのような条紋がありました。
なんでも太秋という品種はこの条紋が出る柿ほど糖度が高くなるそうで、リンゴで言えば蜜が入った感じなのでしょうか。
食べてみると水気たっぷりでサクサクとしており、まるでリンゴや梨のような食感。上品な甘みがあり、食べた後もフルーティな余韻がいつまでも口の回りに残ります。柿をあまり食べない子供さんにも大好評のようで、太秋ばかり食べて困るんだそうです。

実はここ一心農園は、園主の元家さんが引き継いでからまだ10年ほどだそうで、本腰を入れ始めたのもつい最近なのだとか。
元々は大阪で数学教師をしていたんだけど家庭の事情で広良に引っ越し、「せっかくだから」と始めた柿農家がいまや本業になってしまったのだそうです。
「そんな始め方だったんだけど、土壌が良いんでとにかく柿がうまい。そりゃあ楽しくもなるよ。」と元家さん。はじめは家の隣にあった柿数本から始めた栽培は年々増え続け、今ではそれなりの収量が見込めるようになりました。「柿の本場だから知識や経験豊富な柿栽培のプロばかり。先生が良ければ生徒が育つのも早いよ。」
20数年間教師という、元来"教える"職業だった元家さんにとって、柿の栽培は"学ぶ"という初心に返ることができる職業でした。教えを吸収する体験は新鮮で、他にもいくつもの学校やセミナーなど"生徒"として精力的に参加されたそうです。
「プロがせっかく教えてくれているんだから、同じ広良の生産者として変なものは作れない。この方達がいるからこそ今の私があるし、生徒を育てる楽しさも味わって欲しいしね。」
直接購入してくれるお客さんがほとんどだという一心農園のこだわりは"味"。「大きく形が良く綺麗でも、美味しくないと意味はない。」と元家さんは言います。一心農園ではもっとも味がのる時期にあわせて出荷しており、お客様は届いた柿をすぐに食べられるのがうれしいのだそうです。
例年早めの時期からお客様の予約注文があり、「いつでもいいから送って」とか「早めに言っておかないとなくなるから」等々。美味しいという人気は口コミで広がり、「ご注文はありがたいのだけど、数が足りるかどうかが心配だ」と笑って話してくれました。
中には「値段の確認はしなくていいからとにかくおいしい時期に送って」という方もいらっしゃるそうで、「ますます気が抜けない」と話す元家さんの表情は困りつつもうれしい、複雑な表情です。

柿の出来ぐあいは、木を下から見上げて確認することになるので素人にはとても難しい判断。ここ広良では「紅が咲いたら採り頃」だそうで、女性が頬を赤らめたような色が収穫の目安。もちろんそれだけではく、一年を通じて作業をおこなってきた生産者には「どの木にどの子が育っているか」をしっかり把握しているからできる技。

注文が入ったから出荷するのではなく、柿の出来具合が最優先。「わがままな農家だと思われるでしょうが、私たちにとっても一年間の作業をがんばってきた結果として、満足のいくものをご提供したい。」この、こだわりの味ならではの出荷方法をわかってくれるお客様をこれからも大事にしていきたいと考えておられます。
太秋柿・すなみ柿・富有柿の、3品種の天然甘柿を作っている一心農園の最近の悩みはお客様が増え、注文の個数も増えていること。
「収量を増やせば手が足りなくなる。しかし品質は落とすわけにはいかない。」
元家さんご家族総出でおこなっている柿の栽培。味を引き出すためには様々な作業が必要です。味を損ねる除草剤は使えないから草刈りは手作業。有機肥料による土作りはコスト高となり、葉焼き・剪定芝の片付け・土作りや自然災害や病害虫への対策など、農地を増やせば作業量はもちろん増えます。

「生産者と消費者の顔が見えるやりとりだけに、もっと送ってあげたいけどコスト高になれば申し訳ないという気持ちになる。」
こだわりの味を求めるお客様は単なる消費者ではありません。「美味しかったと聞けばすごくうれしいから、よし次も。となる。私たちが気づかないところを指摘してくれたりもするし、いいお客様ばかりです。」消費者との対話を活かし、さらに美味しさを求めて一心農園の躍進は続きます。
「せっかくこんなにいい土地を、縁があって受け継ぐことが出来たので、出来る限り多くの方に満足していただけるものが作れるようにこれからも努力していきたいと思います。」
今回、元家さん・奥様に取材をさせていただきましたが、どんな話の内容でも「で、そのときお客さんがね・・」とか「だからこっちの方がいいって言うのよ」とか、常にお客様の話が出るのは「一心農園さんがお客様を大事に考えている」ことへの証明だと思います。
再始動された農園では新たな販路を切り開くのも一苦労。生産者と消費者との対等な関係を求める一心農園さんは、味へのこだわりを、消費者にどう伝えていくかを考えているのかもしれません。
生産者からひと言
近年は実りが遅いため、出荷予定は11月下旬から12月上旬ぐらいになっております。ご注文いただいたお客様にはご迷惑をおかけいたしますが、何卒ご容赦ください。

一心農園の太秋セット

太秋柿
色が明るいの判別しづらいのですが、10月上旬頃には食味良好となる太秋。400gほどになり、水気があってサクサクした梨のような食感が魅力です。柿好きにはもちろん、苦手な人もお試しいただきたい品種です。皮にはいる条紋は、熟成の証や糖度が高い証拠と言われています。
富有柿
"九度山の秋の風物詩"である富有柿は大粒で糖度が高いため、地元の直売店やファーマーズマーケットでも一番良く売られている品種。柿のなかでも国内甘柿全体の60%を占める代表品種で果実が大きいのが特徴です。なお広良地区の富有柿は種があまりないことから、食べやすいと好評です。

すなみ柿
富有柿の故郷、巣南町で生まれた枝変わり品種で大玉で、着色が早いのが特徴です。また脱渋性に優れているため、硬い時期から食べられるのが人気。中には6Lを越えるものがあり家族全員で食べられるほどです。

柿の表面にある粉のようなものは農薬ではなく、中の糖分が乾燥して表面に出る果粉です