田辺市秋津野地区に平成20年11月1日オープンした秋津野ガルテンは、大きなクスノキと校舎がシンボルとなっている農村地域の自然・文化・人々との交流を楽しむための体験型グリーンツーリズム施設です。

地域の産物をふんだんに使ったレストラン「みかん畑」ほか、宿泊、農業作業の体験や加工・料理、クラフトの体験学習、みかんの樹オーナー制度など、ここ上秋津の魅力がふんだんに詰め込まれています。

木造校舎は原風景

レストランと宿泊、会議や実習・交流に使われる建物は、平成18年まで実際に学校として利用されていました。秋津野の自然に溶け込む佇まいの木造校舎は今年で55歳。ギシギシと音の鳴る廊下や日だまりの軒先。芝生のある中庭を見に訪れる大人達は、子供の姿を自分たちの昔に重ね合わせ、「ここに来ると懐かしい思い出が蘇ってくる」と言います。

タイムカプセルの写真それは空想ではありません。秋津野ガルテンの事務所前には当時の子供達が昭和51年に埋めたタイムカプセルの碑があります。将来これを掘り起こす時、ここで生まれ育った卒業生達が自分たちの校舎前で集い思い出を語る。そんな素晴らしい置き土産を残してくれているのです。

地元の主婦のレストラン

「みかん畑」は、地元産物を使った旬の山菜や魚などの食材を使ったレストラン。地元の山菜・食材や海の幸など、旬の食材を使ったお料理を提供しています。

みかん畑なんと作っているのは地元農家のお母さん達。みな地産の食材を知り尽くし、和・洋・中にこだわらず、どなたでも楽しんでいただけるおもてなしの料理のプロフェッショナルです。

子供が好きなカレーや揚げ物、大人の嗜好に合わせたお総菜や香の物、そして茶がゆをはじめとする郷土料理など、地元産のさまざまな食材を地元の調理方法で心を込めて料理しています。

ランチ「これはなんですか?」「どんな味?」という問いに気さくに答えてくれるお母さん方と接していると、レストランではありながらまるで田舎で農業を生業とする親戚に遊びに来たような、くつろいだ気分に浸れるでしょう。

お昼には気軽に楽しんでいただけるよう、バイキングのランチを提供しているのがうれしいところ。約30種類のメニューから、その日の気分や食欲に合わせて思い思いの料理を皿に取り、みんなで楽しむことができます。

みかん畑はスローフードと地産地消にこだわったレストランであり、秋津野ガルテンの目的や思いが詰まっています。

バイキング料理が並びます

みんながつくったガルテン

秋津野ガルテンを運営する農業法人 株式会社秋津野は、全株主の半分以上、そして取締役員の3分の2以上が農業者です。いま全国でアグリツーリズムやグリーンツーリズムを唱える団体は数あれど、ここ秋津野ガルテンは非常に珍しい成り立ちを持っていました。

上秋津地区は、既に平安時代には集落が形成されていたと言われ、大辺路・下三栖から中辺路に抜ける要所であり、右会津川を上ると龍神を経て真言密教高野山に至る、日高の熊野地方の山村文化をつなぐ役割を持った農村文化圏として人々の交流を担っていました。

しかし、明治22年の大水害により地域のほとんどが壊滅。その後数十年をかけて住民が力を合わせて復興し、その時の協調精神から1957年(昭和32年)に和歌山県で初めての社団法人「愛郷会(あいごうかい)」が発足します。愛郷会は「得られた収益は、地域全体の公益のためだけに使う」ものとして、教育の振興や住民福祉、環境保全等の活動に対して財政支援を行うなど、自主性を尊重するとともに住民同士が一つになった現在の村づくりの基礎を形成しました。

人の和はその後もさまざまな組織や運動へと広がり、生産農家と住民との交流イベントの実施や環境への取り組みなどがおこなわれました。また地元を支えてきた農業に関しても、多品目の周年収穫体制の確立や農道の整備や集落の排水事業など、地元のみんなが参画し、みんなで行う全員参加のまちづくりを行ってきたのです。

秋津野塾

そして1994年(平成6年)。「都会にはない、香り高い農村文化社会を実現し、活力と潤いのある郷土を作ろう」という理念と目標を掲げ、新たに秋津野塾が立ち上がります。

この組織の最大の特徴は「タテヨコに統合されている」ということ。地域で生活をしていく上では、環境や健康、福祉、教育の問題や、農業などさまざまな問題が出てきます。秋津野塾ではそれを各班や各区で話し合い、24の団体に上げてさらに議論を尽くすことで「場当たり的に陥りやすい従来型の決定方法」から脱却し、多くの住民の幅広い合意を得ながら地域づくりを総合的かつ機動的にすすめることが可能となりました。

しかもこの24の団体というのは、町内会、婦人会や老人会、農業委員会や商工会、消防団、公民館、子供クラブや市会議員が所属する有識者と言った別組織。さまざまな価値観を持つ団体のみんなが平等に、同じ課題や問題について活発に考えると言う画期的な仕組みだったのです。

この仕組みにより問題を共有する住民一人ひとりが「この地域の住人のひとりである」という自覚を深めることとなり、さらに地域力を高めていくことになりました。「自分たちが物事を決めていく」という精神を強め、自立と協調性の輪を生み出して、パートナーと連携するという自然な流れを培っていったのです。

天皇杯の快挙

地道に活動を行ってきた和歌山県の日だまり・秋津野。無名の農村にとって大きな転機となったのが1996年(平成8年)の天皇杯の受賞でした。(第35回農林水産祭表彰・村づくり部門)

初代塾長 谷中康雄さんは、「足元を見直し、誇りをもつという意識が地域住民に芽生えるきっかけになった」と言いました。そしてこの賞を受け「地域社会とは、結局そこに住む住民一人ひとりがつくりあげていくのだ」ということを皆に気づかせる好機にもなったのです。

さらに地域づくりに対する熱意が高まる秋津野塾は次のステージに向かって本格化。「マスタープラン」の作成に着手します。
農地の宅地化・混住化が進む農村地帯のあり方への対応ほか、地域文化の継承、農業者の後継者問題などへの不安、環境の変化などに対して「さらに将来を見据えたもの」が必要になってきたのです。

地域のためのマスタープラン

きてら 『上秋津マスタープラン及びマスタープラン策定基礎調査報告』は、愛郷会、つまり地域住民が資金を捻出し和歌山大学の教員グループとともに「民学協働」で平成12年から3年をかけて策定されました。

このマスタープランは、これからの10年先を見越した計画書で

1. 地域社会の構造と意志決定システム
2. 土地管理の現状と今後の土地利用
3. 地域農業の活性化と地域資源の活用

を軸とし、自然と景観、歴史・風土、農業や直売所、農業に関わる問題点、地域住民との連携ほか、あらゆる角度からの考察がなされた地域のための教科書。秋津野ガルテンも、このマスタープランで書かれているグリーンツーリズム事業を具現化するものとして設立されています。

地域資源を生かし、地域作りと経済活動の両立を目指すものとし、「食育・教育」「貸し農園」「農家レストラン」「オーナー樹(園)制度」「田舎暮らし支援」「地域づくり研修受け入れ」など、地域のすべての魅力を引き出し、農業を元気にさせ、地域を元気にするための事業として、地域の合意をもってつくられたのが秋津野ガルテンなのです。

上秋津にきてよ

きてら来てね。来てよ。という意味の方言をそのままお店の名前に使った「きてら」も秋津野ガルテンと同じく地元住民が作り上げた直売所です。

直売所の運営といえば、行政の委託やJAなどが経営することがほとんどですが、「きてら」は愛郷会や秋津野塾の考え方そのまま、関わる31名の生産者達が出資し、1999年(平成11年)に作られました。

きてら店内一年中みかんが実るという秋津野において人気を博すのは、多種多様な柑橘類や梅、野菜など。特に約40種類ものさまざまな柑橘類は圧巻で、温州みかんにはじまり、金柑、ポンカン、不知火ほか、バレンシアオレンジやブンタン、シークワサーなどが販売されています。

特に好評なのが、各季節ごとの柑橘をセットにした「ふるさと詰め合わせ」。旬の柑橘と無添加・無調整のほんもののオレンジジュースがセットになった製品です。

今では出資者も倍増し、果物、野菜、花卉、漬け物や加工品など約200種類もの商品が並び、地元はもちろん市外からのお客様と生産者がふれあうことのできるお店になっています。

そしてこれからの秋津野

秋津野ガルテンの楠本社長は「いたずらに行政をあてにするのではなく住民ができることは住民がする。そして必要に応じて行政の支援・協力を仰ぐ。多くの住民の総意は行政を動かす力になる」と言います。その言葉には、みんなが考え、地域を培ってきたという自信にあふれていました。

今、農業を取り巻く環境は厳しく、廃園や遊休地の増加、担い手や労働者不足など、さまざまな問題があります。しかし農業があるからこそ柔軟な雇用の創出が可能になるのではないか。グリーンツーリズムはその解決法のひとつとして注目されています。

ガルテンはドイツ語で庭。ここ秋津野ガルテンは単なる観光や地域振興のみならず、地域住民が集い会う「みんなの庭」としての役割を担っているのです。

笑顔の楠本社長と玉井副社長



アグリツーリズムやグリーンツーリズムという言葉が広がっている今、秋津野ガルテンはそのなかの1つだと言う人もいるでしょう。しかしその経緯を知れば、関わった方々の熱い思いを感じ、「地域の合意」を得ながらの地域づくりを行ってきたことに驚きます。1957年発足の愛郷会から始まり、およそ半世紀もの長い期間をかけ形成されてきた村づくり・まちづくりは全国でも例がありません。

たくさんの食べものにあふれる現代。中にはコスト重視のため安全を無視したものや、栄養価の低い食品なども出回っています。しかし農業県と言われる和歌山において今いちばん重要なことは、同じ地域の住民として地域の農業と作物を理解し生産者との対話をし、双方が安全な商品や美味しい物の生産をおこなうための言う努力を怠らないことです。秋津野ガルテンはそれが地域づくりに直結するという証明でもあります。

「地産は高いな」と思うのではなく、なぜ高いかを知り、他がなぜ安いのか考える。そして同じ地域の住民である栽培者の立場に立って、共に感じたことを言い合い、全員で考えていくことが濃密な協働となり、地域や町全体を活性化させることにつながるのです。

(2009/1/14 第一回取材)

秋津野ガルテン
秋津野ガルテン
農業法人 株式会社秋津野
所在地
〒646-0001 和歌山県田辺市上秋津4558-2
連絡先
TEL:0739-35-1199
FAX:0739-35-1192
秋津野ガルテンの施設概要
  • レストラン みかん畑
  • 農のある宿舎
  • 農業加工体験室
  • 農村暮らしの体験室
  • 都市と田舎の交流室
  • 会議室
  • みかんの樹オーナー事業
  • 市民農園
オフィシャルサイト
http://agarten.jp/
関連サイト
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事務局からひと言

木造校舎の雰囲気とレストランが大変好評頂いておりますが、いらっしゃるお客様には、体験農園や直売所きてらで販売されている「新鮮な柑橘類」をぜひご賞味いただきたいと思います。このほかにも季節ごとに様々なイベントを開催しています。ぜひ一度お立ち寄り下さい。

クスノキ

ガルテンのシンボル、楠の木

中庭

ひだまりの中庭

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今にも生徒達が出て来そう

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二階から中庭を眺める

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懐かしい気分になる廊下

農村暮らしの体験室

農村暮らしの体験室

農村暮らしの体験室

数人でミーティングできます

小さな水飲み場

小さな水飲み場

生徒のレリーフ

生徒達のレリーフが残る

渡り廊下

渡り廊下

宿泊所

農のある宿舎

教室

教室(現在は使用されていません)

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秋津野で栽培されている柑橘

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生しぼり「俺ん家ジュース」(温州・しらぬい・ポンカン)

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