日本三大美人湯として有名な龍神村は、和歌山県最大の田辺市の北端に位置する村です。日高川の源流が流れ、北に護摩壇山があり標高500mを超える村。冬期は道が凍ることもあります。
この地に産まれ育ち、いったんは大阪で暮らした後Uターン。「元気な龍神をアピールしたい」と立ち上がった女性が、龍神♥は〜との、原さださんです。
帰ってきた龍神村は閑散としており、まさに「さびれた」印象だったと言います。娯楽は少なく、夜には真っ暗。若い人は自分と同じように村外・県外に居場所を求めていました。
目立った観光資源と言えば龍神温泉のみという印象で、お客様に訪れていただけるような魅力が少ない状態。村全体が落ち込んでいるような印象を受けたと言います。
「これじゃあ戻ってきたいとも思わないかも・・」
原さんは、小さい頃から食べていた地元の食べ物の良さを知っていました。そして都会で暮らす人から見た龍神の良さというものを知っていました。「私たちのような外から見たことがある人間が、もっとがんばっていかないと。帰って来たくなる龍神にしないと。」そう思った原さんは、平成14年2月に同じ思いを持つ、村に住むIターン・Uターンの女性たち6名でグループを立ち上げました。
地元に人を集めたい。龍神を知ってもらいたい。そして「龍神村から来ました。」と誇りをもって言える地域にしたい。みんなの熱意はそのまま"龍神の♥(は〜と)"という名にあふれており、龍神を愛する私たちが心からおもてなししたい。という気持ちが込められています。
まず、今地元で販売されている商品が観光客にどう思われているかを調べるため、いくつか村の特産品を集めて販売してみると「どれをお土産に買っていいのかわからない。」という声が多かったんだそう。
特産品と言えば聞こえはいいけど、「これだ」という訴求点や目新しさがなければ、どれにしようかと目移りして当たり前。また多くのきれいなパッケージを見慣れている観光客側にとって、既存の商品はお世辞にも洗練されているとは言えませんでした。
彼女達は「私たちらしい商品をつくれないだろうか。」と考え始め、取り組み始めたのは地元の食べ物でした。
毎日料理している女性に対し、安心できる産物を使った本物の食べ物。添加物は一切使わず、消費者にとってうれしい商品。あまりに日常的すぎるために地元でも気づかないもの。そういう商品ができれば人気が出て売れるに違いない。龍神♥は〜との挑戦が始まりました。
みんなで考えて試作や試食を繰り返し、いくつかの商品が完成しました。当時は販売するための拠点を持っておらず、週末に観光地で屋台を出したりイベントに出店したりして販売していたのですが、地元の反応はさまざまでした。
「商売のイロハも知らない女達がなにやってる」
「客が流れる。うちはこの道何十年なのに」
お客さんを呼びたい一心で国道で旗を振った時などは「そこまでせんでも」と、冷笑されることもあったようです。
Iターン・Uターンの女性ばかりのグループは、地元にとって「外から来た人」と見られていたのかもしれません。「地元を良くしようとして活動しているのに・・。」と肩を寄せ合い、励まし合ったこともあったとか。
しかし中には「新しい風だ」と思う方もいて、スッと来て後片付けを手伝ってくれたり、ポツンとひと言「がんばれよ」という言葉をかけてもらったりして、それが何よりの励みとなりました。
そんな彼女たちに転機が訪れたのは全国で活躍する同じ思いを持った方々との出会い。商品に対するこだわりはもちろん、つくりかた・方法・見栄え・外装などなど。今行われている全国の事例を知ることができたり、みんなが同じ思いを持ちがんばっていることを知ったりと、人との出会いが人をつないでいく。そんなネットワークが広がって行きました。
彼女達の精力的な活動は徐々に認められ、県内での広がりも活発化していきます。2006年には和歌山県から「むらとくらしを考える女性会議」の最高賞である知事賞を受賞しました。
そして2007年に「道の駅 龍神」のそばに念願のログハウスの販売店を開店。彼女たちは遂にこの龍神の地に足をおろして、ここを拠点に、さらに活動を加速させていくのです。
「龍神産のゆずは、高冷地で栽培するからどこよりも香りがいいんです。」
これを使って手作りしているのが「紀州龍神 柚べし」。柚子の中身をくりぬき、1年間熟成させた麦味噌と落花生、きな粉、ゴマなどを合わせた龍神味噌を詰めて、約半年かけて乾燥させて仕上げた昔からの保存食です。
当初から販売を続けているロングセラーでしたが、地元の個人デザイナーにパッケージを依頼してより女性向けにアピールできる包装に変身。手で包み込みたくなるような優雅な製品に生まれ変わりました。
「このふろしきのようなパッケージがいいでしょう。」原さんが差し出した商品は、まるで風呂敷に包んだ贈り物のように、おもてなしの気持ちがこめられていました。
他にもミネラルやビタミンを多く含んだ黒糖を使用した「龍神醤油」や、地元農家の梅干しで作った梅床に野菜を漬け込んだ「おつけもん」。地元産の生シイタケをフレーク状にした「龍神しいたけ節」。地元だから可能になる格外品の有効利用商品など、女性ならではの発想や着眼点が冴える様々な商品が生み出されています。
龍神といえばコレ!というような、広く知られるようなヒット産品をプロデュースしていきたい。原さんは地元と消費者の架け橋を目指して、いろんな人の意見に耳を傾けています。
龍神♥は〜との活動は商品開発だけではありません。田辺市になって地域と活動範囲も広がり、地域連動の取り組みにも参加。
地域外や県外でもお声がかかれば出張販売して龍神のアピールを行います。そのほか地元小学校での食育に関する取り組みや、遊休農地の活用、地元野菜を利用したお弁当の製作のほか、龍神で創作活動をする方々が交流するイベントの開催などにも積極的です。
その実行力の活力源は?とお伺いすると、
「龍神が好きだから。」
このひと言に、原さんの思いが凝縮されています。
各地が本当に誇るべき品は、地元に住み続けると見えなくなることがあって埋もれがち。思わぬ宝物を掘り起こすには、彼女たちのような観察眼や発想力が必要だと思います。
龍神村に限らず、和歌山県の若者は多く県外に職を求めます。戻って来る方もいますが、そのとき「地元の良さ・大切さ」に気づくかどうか。そう思ってもらえるような、まちづくりをしていかねばなりません。
これはそのまま、外からのお客様をお迎えするための取り組みです。つまり、行政や企業はもちろんのこと、住民も一緒に協力していくことが大切です。地元を愛する気持ちを心に蓄え、前を向いて一心に取り組む彼女たちを、どうか応援して下さい。
原さんからひと言
龍神村は確かに不便なところにありますが、だからこそ「心の休息」ができ、「いい産物」が生まれるという素晴らしい場所です。
面積が広い和歌山県は、地域ごとの文化が栄え、地域ごとの味があります。ぜひ龍神村の温泉をはじめ、味と文化を体験して下さい。